2月13日・朝

5/13
前へ
/56ページ
次へ
* * * 「……唯一ちゃんにだけは係わりたくないってぇ、マジで……」 一時限目が終わるやいなや、遁走を謀った市橋は旧校舎、A二棟まで疾走し非常階段の下に潜んだ。 悪夢のような中学時代に記憶遡航をしながら膝を抱える。 誰もいないのに息を殺す。  震えているのが寒さのせいか恐怖のせいか判然としなかった。 上階から落ちるぱたんぱたんとした足音で胃を押さえた。 頭の上を越えて、そのうちに遠くなる。 消えてなくなると、否応なく安堵に気がたわんだ。 呼吸を戻し、砕けるように息を吐いた、途端だった――、 背後に湧き出したほの暗い気配。 急に重いこんにゃくのような何かが被さった。 「い~ちは~しく~ん」 無二だ! 「ぎゃあああっ」 「一緒に逝~こ~う~」 市橋を引きずり出す万力のような握力と、 瞳孔の開ききった氷点下の視線に溺れる。 こうなるともう逃げられはしない。 ついに観念時だ。 唯一無二の兄妹に、到底敵わないことぐらい既知である。 無駄な抵抗の末が生傷では終わらないことも……。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加