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「……唯一ちゃんにだけは係わりたくないってぇ、マジで……」
一時限目が終わるやいなや、遁走を謀った市橋は旧校舎、A二棟まで疾走し非常階段の下に潜んだ。
悪夢のような中学時代に記憶遡航をしながら膝を抱える。
誰もいないのに息を殺す。
震えているのが寒さのせいか恐怖のせいか判然としなかった。
上階から落ちるぱたんぱたんとした足音で胃を押さえた。
頭の上を越えて、そのうちに遠くなる。
消えてなくなると、否応なく安堵に気がたわんだ。
呼吸を戻し、砕けるように息を吐いた、途端だった――、
背後に湧き出したほの暗い気配。
急に重いこんにゃくのような何かが被さった。
「い~ちは~しく~ん」 無二だ!
「ぎゃあああっ」
「一緒に逝~こ~う~」
市橋を引きずり出す万力のような握力と、
瞳孔の開ききった氷点下の視線に溺れる。
こうなるともう逃げられはしない。
ついに観念時だ。
唯一無二の兄妹に、到底敵わないことぐらい既知である。
無駄な抵抗の末が生傷では終わらないことも……。
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