2月13日・朝

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* * * 「じゃあ、まず、おれはー」 「キャッ」  一瞬、子犬が鳴いたのかと思った。 すぐ側のトイレからだったような気がする。 まさかと見回すが、方向的にも距離的にも目ぼしい場所は、そこしかない。 A二棟の寂れた男子用トイレ。 上靴が擦れる音が中から重なって聞こえ、疑惑は確信になった。 ふたりは顔を見合わせる。 「このトイレってもう使えんのじゃなかったっけ……」 無二が指さした。 「使用禁止の札、掛かってるし」  市橋がビニールテープをでたらめに張り巡らせた入り口を指差す。 だが、その奥には確かに人の気配がある。 「「……え?」」 同時に頭を傾けた。 次には無二を上段に重なって中を覗く。 男ふたりの地味なトーテムポールだ。
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