2月13日・朝

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そこには彼氏彼女の痴話げんかよりもずっと邪悪な雰囲気があった。 少し身を乗り出すと女が腕を捻り上げられているのが見える。 背の低い、見るからに地味で真面目そうな女子と、高級な優男の取り合わせ。 一本のカスミソウと、大輪のバラを見るようだ。 バラは、やっぱり男のほう。 メガネのせいかひどく頭が良さそうで、さらにはひどく美形だったので思わず無二は舌打ちした。 「だめ?」 男が熱っぽく囁く。 「私、そんなつもりじゃ……」  「だってさっき、何でもするっていったじゃない」 唇を耳に寄せる。 顔を赤らめつつも、女子生徒はうつ向いて顔を背けた。  肩を抱かれて彼女はますます小さくなる。 「やっぱり……無理だよ――いくら、は」 「そう……」  腕を放すと同時に男は女のみぞおちを蹴り上げた。  女生徒が落ちた。 腹を押さえてうずくまる。 「それはないでしょ……」  声を潜めた市橋が振り返る。 「それはないでしょ!」 そこにあったはずの無二の姿がない。
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