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無二へかいがいしくマフラーを巻きながら唯一が言う。
「ねぇ、ムニ。バラしちゃダメだよぅ? ゆいいの事、はるくんにバラしちゃダメだよぅ?」
「……うん」
何か息苦しかった。
「ねぇ、ムニ。はるくんにバラしたら、ゆいい、ムニをバラす事になっちゃうよぅ」
「うう……」
気のせいだと思いたかった。
マフラーが軋むほど首に食い込んでいる事実が錯覚だと思いたかった。
「ねぇ、むにィ」
そう首を傾げる唯一の瞳孔が開いていく。
どうにか頷き、「まかせろ」と絶え絶えに言う。
「お願いだよぅ?」
「わかった」 ――と言うしかなかった。
「じゃあ、いってらっしゃあい」
舌ったらずの声が硫酸的な劇薬にも勝る勢いで胸を爛れさせてくれる。
登校。
学校に行く道のりをこれほど急いだことはない。
駅までを全力疾走した。
「……つーか、はる君ってどちら様っかなあ?」
息を切らし、窮屈な電車に飛び乗り、喉に血のような味を感じたところで、ようやくそのことに気付いた。
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