六浪僻地をゆく

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周儀は胸倉を掴まれており、それでも怒ろうともせず、じっと堪えていた。 鳥の手が刀を抜こうとする。 しかし、寸手のところで燈に止められた。 四人の中で最も年長者である男だ。 「何故止めるのです。すぐに叩き斬ってやるのに」 「それでは騒ぎが大きくなるだけだ。先生の意を汲んでみろ。何故黙っているのかを」 鳥は目を返す。 悪党は刀を抜いていた。 あっと思う。 刀の切っ先で周儀を脅していた。 塩をよこせと。 塩。 運輸がばれていた。 周儀は肯かず、ただじっとしていた。 これでは殺されかねない。 鳥は我慢できぬと言った。 燈の制止を振り切った。 今にも刀は周儀の命を枯らそうとしていた。 鳥が一歩出るため席を立とうとした時、山が目の前に現れた。 九尺ほどある巨漢。 鳩尾まである長い髭が特徴的であった。 視界が遮られてしまい、鳥が慌てて退けと言った。 「あれは、おまえたちの仲間か」 そう言って男は周儀を指した。 燈が肯んじる。 「ならば、事もなかろう」 男は微笑を浮かべる。 どういうことなのかと鳥が巨体をかわし覗くと、少しばかり小柄な男が一人、周儀と悪党の前に立っていた。 ぼろ布を肩から巻きつけ、草鞋を数個背負っている不思議な男だ。 当然、皆の眼が男に向いた。  
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