六浪僻地をゆく

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耳郎は名を劉備と言った。 劉備玄徳。 傍らの巨漢は関羽と張飛と言って、手にした背丈の倍ほどもある戟と矛が目を引いていた。 「役人が来たら、ぶちのめしましょう」 劉備は酒を片手にそう笑った。 冗談ではない口ぶりである。 張飛がそれはいいなとまた豪快に笑う。 雅が赤子を抱いたまま怯えていたが、燈が諭すと怯えは隠さずそっと周儀の背後に隠れた。 鳥は憮然として周儀の隣に坐していた。 昔から、胆と腕前だけは人並み外れていた。 「御三方はこの町で悪党狩りを」 「いえ。用もあって故郷に戻ってきただけですよ。明日の朝には出ます」 「劉備殿、雪は当分続きますぞ。悪いことは言わぬ、帰還はしばし待たれよ」 劉備はわかっておりますと言う。 理解した上で帰ると言った。 「代郡の山中に居を構えておりましてね。西へ、それほど遠くない場所です。それに長居はできぬのです」 「と、言うと」 劉備は罰の悪そうな苦笑を浮かべる。 張飛が代弁した。 「なに、大兄貴が、ただ役人をぶちのめしただけよ」 「これ、張飛」 関羽が注意する。 張飛が構わないだろうと平気な様子で酒を飲んだ。 劉備は堕廃した役人に我慢ならず、せっかく黄巾党の乱で得た県職を捨てて殴打したという。 金で動く権威などいらぬと思ったと語っていた。 周儀は然りと肯く。  
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