六浪僻地をゆく

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周儀は幸運だったと呟いた。 劉備が首を傾げる。 「いえ、我らも追われる身なのですよ」 「追われるとは、荷の話ですか。塩でしょう」 関羽が言う。 悪党たちは塩を狙っていたと話していた。 関羽はそれを聞き逃さなかったのだろう。 しかし、周儀は首を横に振る。 「塩は役人から流せと言われたに過ぎぬものです。それよりも危なく、価値のある、唯一無二の荷を運んでいるのです」 周儀は含ませた物言いで、言葉尻も濁しながら、淡々と語った。 闇塩を扱っていたことのある関羽は、塩以上に価値のあるものを思いつかなかった。 馬小屋に繋いである毛並み美しい馬か。 いやそれでも周儀らの運ぼうとしている塩の量に勝るとは思えない。 ざっと見て三石(約百キログラム)はある。 荷馬がよろめく量なのだ。 換金すれば都に一等地を買える代物だ。 ならば鳥の持つ猛々しい戟か。 いやそれでも塩には勝てまい。 塩は、金以上の価値があった。 我慢に耐え切れず、劉備はなにかと問うた。 周儀は目を細める。 遠くを見ていた。 劉備らは言葉を呑んだ。 なにも、言えぬ。 静寂。 しばらくして、鳥がうーんと唸った。 夢を見ているのだろうか。 それを見た周儀が、微笑を浮かべた。 劉備の唇が乾く。 周儀の笑みから、覚悟を決めたような空気を感じたのだ。 静寂を斬り裂いた周儀の言葉が、劉備の心を掴んで止まなかった。 「大事な荷は、この子たちです」 拍動。 鼓動が高鳴った。 劉備の目が鳥を捉えた。 うら若き少女は無邪気に眠っていた。  
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