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曹幹が今後の動向を問うた。
「官僚の空席は、宦官に消されているからだろうよ。力をつけ過ぎた、宦官は」
「宦官ゆえに、でしょう。賄賂を払わぬ者はすべからく排斥される。もとは罪人が、立派になったものです」
「幹、それは俺の祖父もなのだぞ」
「それなら、私の叔父もそうです」
曹操は苦笑した。
曹操と曹幹は従兄弟同士であり、ともに宦官の家系に生まれた背景があった。
宦官には性器がないので、あくまで養子に過ぎぬのだが、曹操は宦官という存在に人一倍敏感だった。
だから、宦官の暴挙は耳が痛くなる。
「宦官の話以外になにか」
「では嬉しくない知らせをもう一つ」
曹操に耳打ちした。
目を見開く。
曹幹の情報に相違があったことはない。
十分理解している。
しかしながら、思わずまことかと問うた。
曹幹は神妙な面持ちで、深く、深く、肯いた。
「そうか。これはいよいよだな」
曹操は青天を見上げた。
雲が一つだけあった。
あれが俺かと呟いた。
否。
曹操は太陽に手を伸ばした。
ただ浮きだって消え行くなど、ありえぬ。
この小さな躰で、燦燦たる輝きを放つ太陽を覆い隠して見せる。
俺ならできる。
この曹孟徳ならば、必ずや成し遂げられる。
曹幹が持ち込んだ話とは、帝が危篤状態で、近々逝去するだろうというものだった。
これから待つ激動の時代を前に、空は依然白い歯を見せて笑んでいた。
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