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孫堅は魚を食い毟りながら、悪びれる様子もなく続けた。
「後漢の時代は終わったのだ。だから宦官が好き放題できた。それに、董卓が暴れていられるのも、帝がいるからだろう。帝そのものを廃せば、董卓が暴虐をふるうこともできなかった」
「では、なにか。孫堅殿は、帝を廃し、新たな帝になると言うのですか?」
劉備の語気が、変わった。
曹操はじっとふたりのやり取りに耳を傾けていた。
魚は、まだ運ばれてくる。
黄蓋も、関羽や張飛も、気を遣って席を離しているようだった。
「強い奴が帝になれば良い、と俺は思う。覇者というのは、そういうものではないのかな、劉備殿」
孫堅はにやりと笑った。
なにもまちがっていない。
そうしてこの国は何度も主を変えてきた。
今の時代に気に食わない者が、力で色を一新する。
孫堅の言葉は、真っ直ぐだった。
だからこそ、強く聞こえる。
「漢の血は、四百年続きました」
劉備は、差し出された魚に手をつけることなく、机の上を見つめている。
雰囲気さえも、変わった。
温和な気配はない。
穏やかな人柄の陰に抱く違和感の正体が、見えていた。
鋭い、突き刺すような、気魄。
「なぜ国は荒れるのか、と考え続けていました。我々は国に拠って生きていますが、国が拠りかかるべき存在はいません。私は、それが帝なのだと思います。我々は国に拠って生き、国は帝に拠って生きる。帝は、国そのものになるべきなのです」
二百の兵を率いる、小隊の長にすぎない男の口から飛び出したのは、あまりにも大きな話だった。
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