来る夏

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耳が、寂しがっている。 箏曲を久しく聞いていない。 戦にまで箏師を連れてくる気にならなかった。 失敗したな、と袁紹は思った。 書簡すべてに目をやるのが、億劫だ。 箏曲を聞きながらなら、目を通すことくらいできただろう。 倦み始めていた。 いつになったら洛陽を我が手にできるのだ、と袁紹は息を吐いた。 戦そのものに、辟易している。 もうそろそろ、夏が来る。 暑くなるだろう。 そうなると、何重にも幕を張った陣屋などにいられなくなる。 外に出ても、暑さと兵の動きの煩雑(ハンザツ)さで、まいると思った。 できれば、涼しいうちに抜いてしまいたいものだ。 袁紹は、書簡に目を落とした。曹操という文字が見えて、なんとも言えない気持ちになった。 曹操は孫堅の死の調練をどう受け止めているのか。 気になったが、聞かなかった。 自分の見込んだ曹操ならばきっと、同じような戦慄を抱いているにちがいないだろう。 力を見る目のある軍人ならば、恐れを抱いて当然だった。 暦を見る。 袁紹は、もう一度大きく息を吐いた。 反董卓連合が結成されてから、すでに一年が経過していた。
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