来る夏

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何日か前まで夜襲の真似事のようなことを、連合軍は繰り返していた。 門の前に整列させた呂布の麾下を釣り出そうと言うのだろうが、すべて連弩に追い散らされている。 守兵の二万を四つに分け、五千ずつで交代させている。 だから、真夜中だろうが明け方だろうが、関係ないのだ。 軍内の緩みを、徹底して潰した。 そういう綻(ホコロ)びから、敗北が生まれる。 敵の謀略の糸口にもなる。 怠けている守兵長を八名ほど並べ、首を刎ねた。 それで兵は絶えず緊張している。 逆に連合軍の夜襲の兵は、釣りださなければならないから、どこか本気ではない。 釣り出した後にこそ、戦が始まる。 そういう気持ちを捨てきれないので、矢の雨が降ると、すぐに逃げ帰るのだ。 関の守兵は、敵に殺されるか、呂布に殺されるか、ということだったので、気を緩めない。 そこに決定的な差があった。 気付けば、夜襲の兵を連合軍は出さなくなっていた。 兵糧の欠乏を、狙われた。 戦になると兵糧が必要になる。 野戦では敵軍を破れば兵糧を奪うことができるが、関に篭るとなると、その手は使えなくなる。 輸送経路を断たれると、関での防衛は絶望的だった。 呂布は、高順に兵を託し、兵糧の一切を任せた。 今のところ、敵の攻撃部隊を、すべて打ち破っている。 高順は麾下のなかでも最も兵の扱いが巧みである。 腕っ節が立つ張遼とともに騎馬を駈けさせると、呂布が感心するほど、強い。 高順と張遼をつけている限り、兵糧の心配はないということだった。 そうなると、焦るのは連合軍である。 対峙が続くほど、兵糧が足りなくなるのは、馬鹿げた兵数を擁する連合軍なのだ。 そして関を抜けないときている。 これは、連合軍の威厳にも関わってくる。 時が経てば経つほど、連合運は勢いを失くす。 それで、連合軍を見限って、離脱したり、離叛したりする者が出てくる。 そうなれば、連合軍の敗北なのだ。
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