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姜下はまだ二十三だった。
幼い頃から馬が大好きで、軍馬を眺めるのが姜下の日課だったという。
十年以上前に五原の牧場で出会った。
その時はまだ戦も知らない少年だったものだ。
呂布の馬捌きに憧れて付いてきた。
そのおかげか、今では呂布の馬に遅れずついてくることができる数少ない男になっていた。
「赤兎の調子が良くないようです」
「なに。まことか」
「糞の粘り気が強いのです。内臓を弱らせているのかもしれません」
ここ数日、呂布はずっと楼台で連合軍を睨んでいた。
楼台に登ると、頭がすっきりするのだ。
戦の情景も、地図を見るより、色付いた形で浮かんでくる。
赤兎とは数日会っていなかった。
洛陽にいた頃は、毎日のように過ごしていたので、赤兎も気を患わせたのだろう。
馬の体調は、糞で判断する。
麾下の者はすべて糞で馬の調子を判断できる。
阿吽の呼吸をなそうとすれば、それはできなければならないことだった。
馬と信頼し合えないと、結局は戦場で死ぬことになる。
赤兎は我が強いので、呂布以外の人間に糞を見せようとしなかった。
姜下だけは、心から馬を愛しているからか、赤兎も糞を許している。
それでも、乗せることはない。
「そうか。今、行く」
姜下がはい、と言った。
身の丈を考えると、姜下には槍で充分だった。
体格も貧弱だった。
そのせいか、姜下の戟の腕は、あまり良くない。
戟の重さと長さに躰が追いついていないのだろう、と思った。
それは、見ていてよくわかる。
実際、姜下は戟よりも槍のほうが得意、という感じだった。
剣の腕も悪くない。
小手先で武器を扱うのが得意なのだろう。
それでも戟を持たせている。
麾下には、死んで欲しくないからだ。
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