来る夏

11/17
前へ
/207ページ
次へ
厩へ向かう。 赤兎はほかの馬と一緒に入れられるのを嫌った。 人は赤兎のことを気高いと言う。 そうではないのだ。 赤兎はひとりになることを望んでいる。 鬣(タテガミ)に触れると、高く嘶く。 首筋に触れると、熱い血潮で、そんなことを訴える。 董卓がどうやってこの馬を手に入れたのか知らない。 ふつうの馬とはちがった。 馬は疾駆することだけに心を砕いている。 赤兎は、駈け抜けるだけを望んでいるのではなかった。 拠り辺を求めている。 呂布には、そう思えた。 あり余る力を発揮するだけでなく、どこかで安らげる場所を欲している。 血潮が、そう語りかけるのだ。 ほかの馬にも、雌馬にも、心を許していないだろう。 厩にひとりで入りたがるのも、そういうことだと呂布は知っている。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

524人が本棚に入れています
本棚に追加