524人が本棚に入れています
本棚に追加
春の陽光が射している。
麾下の者がいよいよ出陣なのかとざわめく。
手で制し、ちがうと告げた。
駈けに駈けるだけだ。
それも、今は連合軍と対峙中で、短い時しか駈けられない。
姜下にだけ、供をするよう命じた。
姜下だけは、赤兎にかろうじて追い縋ることができた。
風。
暖かい風が吹き込んでいる。
虎牢関は山岳に囲まれていて、思う存分駈ける場所はない。
三十里(十二キロ)ほど後方までは平地が続くので、そこまで駈けようと思った。
あっという間に着く距離である。
それでも、駈けたい。
赤兎も駈けたいと言っている。
姜下も、そこまでなら付いてこられる。
五十里(二十キロ)を超えると、どうしても馬の質が出てくる。
赤兎に並ぶ馬は、駿馬揃いの麾下の馬のなかにも、いない。
赤兎に跨って、眼前を見つめる。
風が、肌をなぞっていた。
もうなにも考える必要はない。
ただ、駈けるだけである。
腿で赤兎の腹を締めた。
景色が、流れてゆく。
駈けだしていた。
手綱を握らなくても、赤兎は呂布の思う通り駈ける。
陣屋をこさえる兵の横を、疾駆する。
輸送する兵に目もくれず、駈け抜けた。
このまま洛陽まで帰ってしまうのではないか、と呂布は思った。
雷雅に会いに行くのも良いかもしれない。
風を切りながら、そんなことを思っては嘲った。
三十里。
ほんとうにすぐに辿り着いた。
岩がふたつ屹立(キツリツ)しているので、わかる。
この屹立した双子岩を抜ければ、洛陽は眼の前だった。
門のようでもあるが、守ることはできない。
低地にあるので、地形が悪いのだ。
最初のコメントを投稿しよう!