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洛陽がそこにある。
守りたい者と、父と呼ぶ者がいる城郭(マチ)。
力を揮わなければ、奪われる。
呂布は赤兎の上で、じっと眺めていた。
赤兎も、身動(ミジロ)ぎひとつしない。
いつか、赤兎にも雷雅のような存在が見つかれば良い。
守るために力を揮ってくれれば、良い。
呂布は洛陽を見つめながら、思った。
馬蹄が響く。
姜下だった。
軽々と、付いてくる。
呂布も姜下の乗馬は、認めていた。
高順や張遼よりも上手いと思わせることがたびたびある。
赤兎はまだまだ駈けられる、という感じだった。
それでも、帰る時は小走り程度におさえた。
まだ袁紹は出てこないはずだ。
赤兎ともう少しだけ一緒にいたかった。
赤兎は、どの馬よりも駈けるのが迅(ハヤ)かった。
穏やかな春の陽射し。
それも、あとわずかだ。
草木が季節を変えて生え替わっている。
空気も澄み始めていて、夏のものだった。
夏になれば、ずっと暑くなる。
河でも見に駈けるか。
虎牢関まで帰る道すがら、そんなことを赤兎に語りかけた。
姜下の小さな笑い声が、後ろでする。
赤兎の鬣が、風に靡いていた。
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