来る夏

14/17
前へ
/207ページ
次へ
洛陽がそこにある。 守りたい者と、父と呼ぶ者がいる城郭(マチ)。 力を揮わなければ、奪われる。 呂布は赤兎の上で、じっと眺めていた。 赤兎も、身動(ミジロ)ぎひとつしない。 いつか、赤兎にも雷雅のような存在が見つかれば良い。 守るために力を揮ってくれれば、良い。 呂布は洛陽を見つめながら、思った。 馬蹄が響く。 姜下だった。 軽々と、付いてくる。 呂布も姜下の乗馬は、認めていた。 高順や張遼よりも上手いと思わせることがたびたびある。 赤兎はまだまだ駈けられる、という感じだった。 それでも、帰る時は小走り程度におさえた。 まだ袁紹は出てこないはずだ。 赤兎ともう少しだけ一緒にいたかった。 赤兎は、どの馬よりも駈けるのが迅(ハヤ)かった。 穏やかな春の陽射し。 それも、あとわずかだ。 草木が季節を変えて生え替わっている。 空気も澄み始めていて、夏のものだった。 夏になれば、ずっと暑くなる。 河でも見に駈けるか。 虎牢関まで帰る道すがら、そんなことを赤兎に語りかけた。 姜下の小さな笑い声が、後ろでする。 赤兎の鬣が、風に靡いていた。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

524人が本棚に入れています
本棚に追加