六浪僻地をゆく

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  馬車を操る髭の濃い男の傍らを、別の黒馬が歩く。 立派な毛並みをした馬だった。 それに跨(マタガ)る髭も生えていない男子。 そして健気に歩く、十近いもうひとりの女子と、それより数年若い少年と赤子。 旅団は六名である。 髭の男を除く五名は皆一様に狐白裘を着ていて、眼は燃え盛るような赤色をしていた。 初老の男は地図を見た。 もうすぐに届け先である薊(ケイ)郡の町に着く。 しかし夜も近く、降雪も激しい。 五人の体力も長くは保たないだろう。 もしかしたら動くこともままならなくなるやもしれない。 立ち止まる。 危険を冒して全滅するよりは良い。 男は宿をとろうと提案した。 赤子がぐずる。 四人は静かに、肩を震わせながら、小さく肯いた。 六人は小さな町に寄った。 もうすっかり日は暮れていた。 ここはタク県の町であるらしい。 酒屋と精肉店が軒を連ねる凡庸な町並み。 薊郡のそれと比べると、寂しいものである。 活きの良さが売りの養鶏家の庭は、雪で荒れ果てており、生き物はいない。 閑散としているが、夜を迎えたこともあって、いくらかの店は営業しているようだった。 町全体が酒の匂いに包まれている気がした。
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