六浪僻地をゆく

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男は宿を探した。 半刻ほど歩きまわってようやく見つけた。 町に唯一ある宿のようだ。 男は自分を含めた六人を泊めてくれと頼んだ。 しかし、断られる。 なぜかと事情を聞くと、最近役人が躍起になって懲罰を与えているのだという。 いまだ各地に信者を増やし、不穏な気配を漂わせていると噂の黄巾党である。 黄巾党の乱が終わって久しいが、教祖張角亡き後も根強く活動しているらしい。 黄巾党に関与する者を罰した役人には褒美が与えられるとかいうことで、この小さな町でも悪政が横行しているようだ。 先日、南から来たという平凡な男を招き入れた家の者が処罰された。 打ち首である。 今朝方撤去された。 男は黄巾党とはまったく無縁であったが、不幸に遭った家族の者に謝罪し、立ち去った。 だから泊めることはできないと主人に言われた。 申し訳ないとも言われた。 男は唸った。 それ以上無理も言えず、渋々五人を連れて宿を出た。 男は震える四人を見て、とにかく食事だけでもとらせようと思った。 五人が入れる町一番の大きな店に立ち寄った。 戸を開けるなり、酒の匂いが鼻を刺した。 加えて耳をつんざく騒音が聞こえた。 酒場は盛り上がっているようである。 皆が目を細めた。 我慢しろとだけ四人に告げて、一番隅の円卓席に腰をおろした。  
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