524人が本棚に入れています
本棚に追加
店主が注文をとりにきた。
温かい物をくれと言うと、けむたい表情をされる。
たしかに、ここは酒屋である。
しばらくして温かい飲乳が出された。
牛乳と羊乳を混ぜた物が主流であった。
男にはとっくり程度のわずかな酒が出された。
店主の厚意だった。
寒さには酒が一番だと笑んでいた。
飲乳を差し出され、四人は狐毛の頭巾を脱いで、一言も話さずに、それを口に含み始めた。
温かさに頬が緩んでいく。
ほんのり赤く染まる少年少女の表情は、実年齢よりもずっと幼く見えた。
豚肉を出され、腹を空かせた五人は、飲むように食した。
ずっと辛い旅路だったのだ。
男は一口酒を含み、辛いそれが喉を通る瞬間に酔いしれた。
後から、ほんのり甘みがきた。
「周先生。宿は、どうするんですか」
十の女子が問うた。
周と呼ばれた男はわからぬと答えた。
実際、どうするべきなのか悩んでいた。
男の名は周儀、四人からは周先生と呼ばれていた。
「野宿もありうる。それよりも、町から動けぬやもしれぬぞ」
「そこまで、雪は降るのですか」
少女が問うた。
周儀が答える前に、隣に座る少年が肯んじた。
「雪は五日続くでしょう。薊郡までの道は使えなくなる可能性が高いため、それを見越した野宿にすべきでしょう」
「うむ、その通りだ」
周儀はうなずく。
少年は照れた笑みを浮かべた。
雪はどんどんひどくなる。
野宿で切り抜けられる強さではなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!