六浪僻地をゆく

5/15
前へ
/207ページ
次へ
店主が注文をとりにきた。 温かい物をくれと言うと、けむたい表情をされる。 たしかに、ここは酒屋である。 しばらくして温かい飲乳が出された。 牛乳と羊乳を混ぜた物が主流であった。 男にはとっくり程度のわずかな酒が出された。 店主の厚意だった。 寒さには酒が一番だと笑んでいた。 飲乳を差し出され、四人は狐毛の頭巾を脱いで、一言も話さずに、それを口に含み始めた。 温かさに頬が緩んでいく。 ほんのり赤く染まる少年少女の表情は、実年齢よりもずっと幼く見えた。 豚肉を出され、腹を空かせた五人は、飲むように食した。 ずっと辛い旅路だったのだ。 男は一口酒を含み、辛いそれが喉を通る瞬間に酔いしれた。 後から、ほんのり甘みがきた。 「周先生。宿は、どうするんですか」 十の女子が問うた。 周と呼ばれた男はわからぬと答えた。 実際、どうするべきなのか悩んでいた。 男の名は周儀、四人からは周先生と呼ばれていた。 「野宿もありうる。それよりも、町から動けぬやもしれぬぞ」 「そこまで、雪は降るのですか」 少女が問うた。 周儀が答える前に、隣に座る少年が肯んじた。 「雪は五日続くでしょう。薊郡までの道は使えなくなる可能性が高いため、それを見越した野宿にすべきでしょう」 「うむ、その通りだ」 周儀はうなずく。 少年は照れた笑みを浮かべた。 雪はどんどんひどくなる。 野宿で切り抜けられる強さではなくなっていた。  
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

524人が本棚に入れています
本棚に追加