六浪僻地をゆく

6/15
前へ
/207ページ
次へ
周儀が酒を飲み終える頃には四人の皿に肉はなかった。 だが腹は満たされていないようで、特に鳥が物足りぬ様子で坐していた。 あの大きな戟を持ち歩く少女だ。 育ち盛りの女子である。 やれやれと周儀は苦笑し、酒瓶を机に置き、店主を呼ぼうと立ち上がった。 かちんと目が合う。 不精髭の目立つ悪党である。 見せびらかすための腰の刀が物語っている。 背丈も八尺はあろう。 並の者なら身ぐるみを差し出し逃げ帰る。 そんな者が三人いる。 周儀を睨みつけている。 周儀は視線に気づきながらも無視した。 相手にするほど、暇ではない。 四人が視線に気づく。 悪党たちを睨み返す。 周儀が止めた。 争いは、弱者が繰り広げるのだと諭した。 四人はその一言で途端に口を閉ざしてしまった。 「よお、何を見てるんだい」 悪党の一人が絡む。 得意げに刀をちらつかせている。 鳥はいまだ腰に備えている刀に手を伸ばした。 たった三歩で斬りかかれる。 おかしな振る舞いをした瞬間、首を薙いでやろうと考えていた。 その目はいつも以上に真っ赤に染まっていた。 「特に何も、見ておりませぬ」 「嘘を吐くんじゃあねえぞ。こっちを睨んだじゃねえか」 騒ぎ立てる。 喧騒。 騒ぎが広がり店内が騒然となった。  
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

524人が本棚に入れています
本棚に追加