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その刹那。
力士にその横面を叩かれた古いTV画面のように視界が激しくブレて歪んだ。
気づくと尻餅をついて天井を仰いでいた。
コンマ何秒途絶えていたであろう知覚機能が徐々に元に戻りだす。
霞んでいた視覚が明瞭さを取り戻し、次に聴覚が途切れていた周囲の音を拾い出す。
仰いで見たものは灰色の制服を着た初老の男性と、その男性が大げさに叫んでいる声が聞こえてきた。
「フォー、ファーイブ!・・・」
規則的なリズムで数字を叫ぶ男性を、それがレフリーだと思い出すまでにさらにワンカウントを要した。
「セブーン!・・・・」
慌てて足に力を込めてついた手を支点に身体を起こす、大丈夫だ立てる。
立ち上がりレフリーを睨みつける。
レフリーは何かを確かめるようにこっちの目をいぶかしげに覗き込んできた。
もう一度レフリーを睨む。手にも足にもダメージなんてありゃしない。
1秒間経過。
わずかにうなずいたように見えたレフリーは、こちらが睨みつける視線を避けるかのように身体をヒラリとターンさせた。
睨みつける対象物を失った目は、レフリーに後に立ってる別の人間を捕捉した。
同時に身をひるがえしたレフリーは今度は数字ではない言葉を高らかに宣言した。
「ファイト!」
この試合は6回戦。だから3分間の戦いを6回繰り返す。
ダウンしたこのラウンドは4Rだったはずだ。
この試合で勝つには逆に倒し返すしかない、でなければ判定で負けるだろう。
そもそもダウンさせられたことに対する怒りが沸々とこみ上げてきている。
それは自分に対してか、自分を殴った相手に対してか。
グローブに力を込めると同時に、正面からの打ち合いに突っ込んでいった。
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