彷徨人

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 彼は人工生命体。  繁栄を極めた遥かな時代、肉体を造られ、記憶を複製し生み落とされた。  最新、最先端そして最高の技術、全てが備わっている。  しかし、完璧な記憶の複製が故に、(自ら承諾したとは云え)基礎となった自分は者であり、複製側の彼は物として扱われることに納得できなかった。  存在の苦悩、基礎体への怒りなどから暴挙に走り、科学者や警備員数十名を殺害し脱走。  その時、強引に自分で自分の記憶を改竄した結果、各種機能の停止、及び精神に異常をきたしてしまう。  以来、幽かに揺らめく自己と虚ろな記憶を残し流離人となった。  同時期に原因不明の倦怠感が世界中に蔓延――一説では、数年前に宇宙より飛来した一隻の船に原因があるとも――、活気を失った世界は静寂に包まれた。
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