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「……?」
不意に肩を叩かれた。振り向くと後ろのテーブルの客が俺の肩に手を置いている。元々そうなのか染色しているのかは定かではないが珍しい白い髪の男だった。
この頃から常に余裕に満ちた笑みを浮かべているが、それはイヤラシイ笑みではない。大人の落ち着きが漂う涼しい感じの笑みだ。そんな雰囲気が眼鏡の奥の目から滲み出ている。
男は突然の事に戸惑っている俺に話しかけてきた。内容は「仕事を探しているのか?」といった物だ。
因みに彼が使ったのは英語ではない。フランス語やイタリア語でもなければ中国語でもない。彼が使ったのは『俺達の言葉』…怪盗言語だった。
少し間を開けて我に帰った俺は怪盗言語で彼が同業者なのか尋ねる。彼は先程までの涼しい笑顔から一転、意地悪な大人(と言っても俺と同じくらいだが…)の表情になる。まるで俺の反応を楽しんでいるようだった。
仕方ないので自分で考えることにする。まぁ怪盗言語を扱える時点で同業者、あるいは情報屋のどちらかだろう。
情報屋が何かと言うと、今俺の目の前でアイスティーを飲んでいるオッサンがその例だ。奴等の仕事は依頼主と俺達とのパイプ、即ち仲介役だ。
そして口ぶりから察するにこの白髪の男もそうだろう。俺に仕事を紹介してくれるんだろうから。良い依頼が無い中、すぐ近くに新しい情報屋がいたことは幸運だったかも知れない。俺はこのときそんな風に考えていた。
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