同居生活

6/6
前へ
/15ページ
次へ
漸く家に着いたのが、20時を回った頃だった。 「ただいま。」 自宅の扉を開く。 明かりは点いておらず、真っ暗な室内。 廊下を覗き込めば、リビングから漏れる青白い光。 どうやら、ユリはテレビを見ているらしい。 靴を脱ぎ、廊下を進む。 半開きになったリビングの扉の前に来た時のことだった。ドアノブに伸ばした手が止まる。 『………。』 「……?」 ユリが何か呟いている。 思わず、大河はドアノブの隙間からリビングを覗き込む。 ユリはテレビ画面の中に居た。 番組はよくあるバラエティ番組。最近人気らしいお笑い芸人がネタを披露している。 そのネタは、ボケが多重人格だったらというものらしい。 ツッコミに叩かれる度、性格が豹変している。 ユリはそれを見ながら何かしら呟いているらしい。 テレビからの笑い声に紛れて、それが聞こえてくる。 『…やだ……ゎたさなぃ…クロ……だめ…………シロ……ずるぃ……ぁたし…って…』 それはまるで誰かと話しているようだった。 大河は何故か、一抹の不安を覚えた。 まるで、ユリが自分の知らない存在になってしまったようで…。 躊躇われたものの、大河はリビングの扉を開け、電灯のスイッチを入れた。 「ただいま、ユリ。」 『あ、タイガ!おかえり!』 ユリはいつもの笑顔で、大河を出迎えた。 『もーっ。遅くなるなら連絡頂戴よー。』 「ごめん。そんなゆとりもなくってね。」 『全くぅ。"奥さん"を待たせたら駄目なんだよ!』 「奥さん…?」 『私のこと。"奥さん"って家で男の人を待ってる女の人のことでしょ?だから、私はタイガの"奥さん"!』 「…いや、奥さんっていうのは…。」 そういう関係になるには、前提条件として"結婚"があるワケなのだが…。 『あれ?間違ってる?』 「…まぁ間違ってはないような…。」 『じゃあいいじゃん!』 「…いいのか…?」 果てしなくよくない気がするが… 大河はとりあえず、頭をリセットして着替えることにした。 考えても仕方ない。 近藤侑理のことも、先程のユリのことも。 ユリとの生活に限りがあるわけでもないし、じっくり時間をかけていけばいい。 だが、大河は気付いていない。 不穏の足音がすぐ近くまで近づいていることを。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加