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その工場へジローが配置換えになるのは、まだまだ先のことになりそうだったが、ジローにとっては、どの部署も無難にこなせそうな、そんな思いにかられてきた。
しかし、今後いくつかの波乱が含まれていようとは、ジローも、そして受刑者たちも、考えは及ばなかった。
ジローは見回りをしながら、以前勤務していた千葉刑務所のことをときどき思い出す。
千葉刑務所は、A級(犯罪傾向が進んでいない受刑者の区分)とはいえ、8年以上の刑期を務めなければならない長期刑務所だ。
中には、無期懲役になるような、重罪犯もいる。多くの受刑者は、おとなしそうな、一見普通の人にしか見えないが、中には重罪を犯した凄味を感じさせる者もいる。
そんなとき、ジローはなるべくそういった受刑者たちとは接触を避けるようにしていた。
だから毎週移送者がやってくるたび、始めはそういう人間はいないかどうかかなり気にしていた。
しかし、慣れてくると、受刑者たちを適当にあしらう術も身についてきたし、なにより環境に目をつぶれば、勤務自体は楽だ。
タクマ・モリが移送されてきたのは、まさにそんなときだった。
ジローからみたタクマは、一見すると暴力的な雰囲気を感じさせなかった。しかし何か底知れぬものを持っていそうだった。それは、タクマとともに移送されてきた他の受刑者からも感じられたが、幸いその受刑者は、ジローのエリアではなかった。
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