セクション9

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 昼食が終わると、入浴が許可された。昨日、ほとんどの時間を移送と入所検査に費やされたので、いい気分転換にはなるはずだ。  タクマは、移送前日に東京拘置所で入浴できたので、1日置いての入浴となった。  タクマのいるエリアから数人の移送者がタオルと石鹸、シャンプーを持って出房し、少人数なので一列縦隊で浴室へ向かう。  浴室は各居住エリアに雑居入浴用が一つ、単独入浴用が数室、それから工場エリアに大浴場が数か所ある。  居住エリアの雑居浴室は、だいたい10人くらいが入れるようになっていた。脱衣所で服を脱ぎ、安全カミソリを借りる。このときは、刃を立会いの刑務官に点検してもらう。  そして入浴。拘置所同様、交談(私語)は禁止されている。  タクマはまず頭を洗い、そして全身を洗い、最後にひげを剃る。この間わずか7~8分。入浴時間は15分と決められているので、自然と早く身体を洗う術が身に付いた。(もっとも、どこでも要領の悪いのはいるもので、15分間に身体しか洗えないものも中にはいる)  身体を洗ってしまえば、後は時間まで浴槽に浸かっていればよい。このときは、入口の方を向いていなければならない。  タクマは、チラリと様子を見た。同じ日に入所した者はいなかった。刺青をしているのもタクマのほかには1人だけだった。  みんな、どことなく覇気のない感じがする。無理もない。遠く宇宙まで刑に服するために連れてこられたのだから。  「5分前~」  立会いの刑務官は大声で知らせた。この5分間に、入浴を済ませておかなければならない。  タクマは、2~3分浴槽でのんびりし、それから入浴道具を片付け、身体を拭いた。入浴の時、身体洗いと身体拭きは1本のタオルで済ませなくてはならない。  そして、再び剃刀の刃を点検してもらって返納し、服を着る。わずかに湿った身体と、着たきりの下着を再び着る感触が気持ち悪かった。
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