セクション9

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 一方、ジロー・ナカセは滞りなく職務をこなしていた。  まず、この刑務所が、仮釈放を前提とした施設であるということ、それに受刑者の戸惑いもあってか、大きなトラブルに見舞われないのだ。  願箋(受刑者が頼みごとをするときに書くもの)の処理が終われば、午前中の業務はわりと暇になる。  そうすると、エリア内の居室を見まわったりする。  一応、受刑者たちはおとなしく過ごしているようだ。ただ、壁にもたれるのを許可しているが、実際にもたれている者は、壁が斜めのせいか、座りにくそうだった。  受刑者にさせる作業がないと退屈なのは、刑務官も一緒であった。  休憩時間、同僚と一緒に居ると、中には、  「あー、だれかトラブルでも起こしてくれねーかなー」  とまで言うものも現れてきた。それもそのはず、まずトラブルを起こしそうなのは、移送中、またスカイフックリフトで昇って来るときに起こしたあげく、別の刑務所に送られてしまう。  午後の業務もあまりない。やはり見回りをする。ときには受刑者に声をかけたりもする。そんなとき、たいがいの受刑者はおとなしく素直だ。  そんな状況なので、ジローは交替で休憩することも多い。担当するエリアを、2人で受け持つことも多かった。  そして、この刑務所では、受刑者が埋まってきたとはいえ、工場は本格作動していない。受刑者と刑務官と作業技官で工場を作り上げ、段取りをしている感じだ。  工場が稼働するようになったときに、ジローは工場を担当する内示を受けていた。  
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