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宮島は純を背中から下ろし、そして手を引いて一つ一つ墓石を確かめて行く、その足取りは重かった。
三列に並んでいる墓石群の中央付近で、宮島は『先祖代々之墓』と刻まれた墓石の後ろにわりと新しい塔婆が立っていて、そこに探していた『佐藤文代』という名前を見つけた。
宮島は純を見つめ、そして墓石を見て呟いた。
「純…お母さんだ…」
一瞬純はビクッと肩を震わせ、墓石と宮島を何度も見返した。
「お母さんなんだよ…純」
自分は何と残酷なことをしているのかと宮島は思う。
何もさっきの今でなくともいずれ知らせることも出来たものを、何故今にとも思う。
しかし今でなくてはならないとも思う。
悲しみは後回しにするほど、その重さは堪え難いものになる。
文代が自らの命を以って長らえさせた純の命だ。
その文代のこの世にいない事実を、純は知らなくてはならない。
これから生きていく為にも、強く生きていく為にも、純は知らねばならない。
宮島と墓石を交互に見ていた純の顔が墓石を見て止まった。
ただひたすら母の迎えを待った日々は、幼い純が経験したことの無い耐え難い地獄の日々であった。
その母は迎えに来ることは無く、純は母を焦がれるあまり施設を脱した。
そしてここまで来た。
純は知った。
母は冷たい墓石の下に眠っていることを。
もう永遠に自分を迎えに来ることはないのだと。
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