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「うーぅあぁぁぁー!」
純が墓石の前に崩れ折れた。
純は言葉にならぬ声で号泣した。
地の底から湧き上がるような悲しみが墓地を支配さた。
肩を震わせ、全身を震わせて純は泣いた。
十歳の少年が母の死を受け止めることは想像を絶する悲しみであろう。
純はこれまで一度として父の名を口にしたことはない。
幼い純の脳裏に父が刻み込まれるには、父の生はあまりにも短かかった。
その父が抜けた間隙をしっかりと埋めたのは、母の無上の愛であった。
この地上で純にとって、母は己が生きている証であり、愛そのものであった。
この地上の誰よりも近く、誰よりも優しく、誰よりも懐かしい存在であった。
その母はもういないのだ。
この近くのどこにもいないのだ。
その母の生きていた証は、目の前の冷たい墓石のみなのだ。
《オカアサン・オカアサン・オカアサン》
突然墓地に無機質な電子音声が響き渡った。
《オカアサン・オカアサン・オカアサン》
純が狂ったように電子辞書の赤いボタンを押している。
電子音声は物言えぬ純の、母への悲痛な呼びかけであった。
その乾いた無機質な声は、純の涙で言いようのない湿り気を帯び、宮島の、そしてリエの耳に突き刺さって来た。
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