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「さあ!行くぞ!」
宮島は強く言い放つ。
絶望の悲しみの中にいるこの少年に、今日を、明日を、未来を生きる事を教えねばならない。
自分は今父親なのだと自らに言い聞かせて、宮島はリエに縋り付いている純をじっと見た。
純がリエの胸から顔を上げ、そして宮島を見上げた。
涙に濡れたその瞳の中にあるそれは、悲しみに打ちひしがれた者のそれではなかった。
「純、お前…」
絶望の悲しみは少年に何を促したのであろうか。
十歳の少年は自らの悲しみに決別したのだ。
「純…」
リエが少年の横顔を見た。
その横顔のあどけなさの中に、生まれたばかりの強い意志が浮き出ていた。
少年は今日までの短い人生の中であまりにも多くの悲しみと苦しみを知った。
少年はその小さな手で持てるものの全てを失った。
そしてたった一つだけ母が残してくれたものが命。
その掛け替えのない命を少年は母の財産として引き継いでいくのだ。
強くあらねばならない、誰よりも幸せになる権利が少年にはある。
その横顔を見つめながら、少年はきっと優しくて強い男になるであろうとリエは思った。
宮島は無言で純に背中を差し出し、純も黙って宮島の背中に身を預けた。
そんな二人をリエも無言で見つめた。
宮島は再び純を背負うと、もう墓石を振り返ることなく階段を下り始めた。
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