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大きなスクープを取り逃がしたマスコミの群れであろう。
キャスターらしい女性がマイクを持ち、それをカメラに収めるクルーの姿もあった。
宮島はそんなマスコミの群れを横目に施設の正門の前を通りかかる。
正門の前で宮島は一瞬奇異な感覚に捕われた。
しかし、それが何の為であるのかわからないまま、宮島はアクセルを踏み込んだ。
施設の緑色のフェンスの内側には誰の姿も見えない。
あの日、純と初めて出会った日、パトカーの止まっていたカーブの空き地には、今日は何もない。
しばらくして車は経木山の展望台駐車場に入った。
宮島は車を降りた、そしてリエもそれに続いた。
車のドアを閉める前に、リエは目を覚まさない純にバスタオルをかけてやった。
純の寝顔にかすかに笑みがこぼれた。
楽しかった母との時のことでも思い出しているのかも知れない。
純を起こさないよう、リエはそっとドアを閉めた。
宮島とリエは展望台への階段を上り始める。
無言で何段も何段も上がる。
広場に出た。
宮島とリエはあの雨の日を思い出す。
純と初めて出会ったあの日のことをだ。
あれから僅か数日しか経っていないのに、もう何年も経っているかのように二人は感じた。
宮島とリエはあの日純を見つけた林を見る。
林は陽光をうけてキラキラと輝いていた。
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