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リエは自分が幸せであることに気が付いたのだ。
純の母親のように純を長らえさせた愛も、自分と意見を衝突させて未来を安じる愛も、形は違えども同じ母の愛であるということを。
反発する相手のいる自分は贅沢過ぎるほど幸せなのだと。
宮島はそんなリエを抱きしめてポツリと言った。
「それがわかっただけでも…リエの旅は十分有意義だったな…」
「うん…うん…」
リエは宮島の肩に額をあてたまま涙声で頷いた。
しばらくしてリエが言った。
「…お父さん…」
「うん?」
「お父さんは…どうして旅に出たの?」
来るべき時が来た。
いつか話すとリエには言った。
リエになら話せると言った。
話さねばならないだろうと宮島は思った。
事の大小はあろうが、リエは自分の真実を話してくれた、今度は自分の番だと。
「俺はね…」
「うん…」
「妻を…殺した…」
ハッとリエが息を飲む音がした。
「どう…して?」
「ほんのハズミだった…」
宮島は胃の奥から苦いものが湧き出す。
「本当に?」
「ああ、リエに出会った日の朝だった…」
怖れられ、唾棄され、軽蔑されても仕方ないと宮島は思った。
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