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『はい、宮島ですが…』
携帯から聞こえて来た声に宮島は瞬間瞼がカッと熱くなった。
何か言おうとしても声も言葉も出て来ない。
『もしもし?宮島ですが、もしもし?』
死んだはずの、自分が殺してしまったはずの妻が、携帯の向こうで問いかけている。
宮島は固く強張った唇をやっとの思いで開いた。
「きょ、京子…」
『!?…あなた?あなたなのね!?どこ?今どこにいるの!?あなた!』
宮島の目に涙が溢れた。
「京子…もうすぐ…帰る……」
『ええ!ええ!待ってるわ!お願い!早く、早く帰って来て!待ってる!いつまでも…待ってる…』
妻の言葉は涙で震え、最後は鳴咽で言葉にならなかった。
宮島も同様、これ以上何も言えなかった。
宮島は電源を切るとその場に泣き崩れた。
安堵と後悔の念が宮島の中で複雑に絡み合い、絞り出すような声を上げて泣いた。
罪人でなくなったことよりも、未だ京子の夫であることが嬉しい宮島であった。
「よかった!よかったねお父さん!」
リエが宮島の首に抱き着いて来た。
「ありがとう!ありがとうリエ…」
宮島は泣いた。
愛する娘と泣いた。
風が吹き渡り、心の暗雲を掃うかのように、抱き合って共に泣く二人の周りを駆け抜けて行った。
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