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久しぶりに山形のリエから宮島のところに電話が入り、代わったリエの父が、『厚かましいお願いで恐縮ですが』と娘の上京を知らせて来たのは三月の初めであった。
リエは宮島達と旅をしたことで、悩んでいた自身の進路を福祉関係の仕事に就きたいと決心し、受験先を東京の福祉短大に定めて両親を説得した。
しかし話がスムーズに決まったわけではなく、娘を一人東京にやることに猛反対したのは、母ではなく意外にも父であったという。
そしてリエの上京を後押ししてくれたのは、いつもリエと衝突していた母であったことも意外であった。
『今やりたいことがあるのなら、今やらなければならない。 やれない後悔があってはならない』
というのが母の言葉であったと、上京したリエは話してくれたのだ。
妻と娘に共同戦線を張られては孤軍奮闘の父は折れざるを得ず、件の電話になったのだと、リエは笑いながら話したのだった。
「本当にあのときは急な話でごめんなさい、家のお父さん東京に知り合いがいないものだから…」
リエはすまなそうに言った。
「何言ってんだ、水臭い。俺は嬉しかったぞ?リエのお父さんが俺を頼ってくれたこと」
リエの父が娘のために住まいの手配を依頼して来たとき、宮島は一も二もなく快諾した。
娘が帰って来るのだ。
宮島に嬉しくないはずはなかった。
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