かりそめの家族・後日談

4/8
前へ
/223ページ
次へ
 久しぶりに山形のリエから宮島のところに電話が入り、代わったリエの父が、『厚かましいお願いで恐縮ですが』と娘の上京を知らせて来たのは三月の初めであった。   リエは宮島達と旅をしたことで、悩んでいた自身の進路を福祉関係の仕事に就きたいと決心し、受験先を東京の福祉短大に定めて両親を説得した。   しかし話がスムーズに決まったわけではなく、娘を一人東京にやることに猛反対したのは、母ではなく意外にも父であったという。   そしてリエの上京を後押ししてくれたのは、いつもリエと衝突していた母であったことも意外であった。   『今やりたいことがあるのなら、今やらなければならない。 やれない後悔があってはならない』   というのが母の言葉であったと、上京したリエは話してくれたのだ。   妻と娘に共同戦線を張られては孤軍奮闘の父は折れざるを得ず、件の電話になったのだと、リエは笑いながら話したのだった。   「本当にあのときは急な話でごめんなさい、家のお父さん東京に知り合いがいないものだから…」   リエはすまなそうに言った。   「何言ってんだ、水臭い。俺は嬉しかったぞ?リエのお父さんが俺を頼ってくれたこと」   リエの父が娘のために住まいの手配を依頼して来たとき、宮島は一も二もなく快諾した。   娘が帰って来るのだ。   宮島に嬉しくないはずはなかった。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加