タイムスリップナンセンス 前編

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 戦争というのは、勝った負けたという点に注目が集まりがちである。また歴史と言うのは勝者の物であることを、俺たちは忘れてはいけない。  教科書ないし参考書なんかには勝敗がどうだとか領土がなんだとか条約が不平等だとか、およそそういったことしか記載されていないのであり、これは致し方ないことなのである。  というか実際、勝敗が全てである。  ただ、重要なのはそれだけではないとのことだった。  彼女いわく、 「引き際というのが、戦争では重大なのです。戦争が長期化、泥沼状態になる一番の理由が、引き際を解ってないことにあります」  だそうで。  こんな話を聞くのは、実は二度目である。  一回目は、俺の師匠から。  シルヴィア=ヴァキシオン。  王族。副騎士団長。凄腕の魔術師。俺の師匠。  彼女は強くて、そりゃもう物理的なのは言わずもがな。だが本当に強いのはむしろ精神である。  心、と言った方がいいか。  彼女のアイデンティティは彼女自身のアイデンティティを曲げないこと。  実に難儀で、難義で、俺だったらやってられない。そこをやり遂げるのがシルなのだ。  結果として彼女は、多くの物を得て、それ以上に多くの物を失った。  ま、いいんじゃないかと思う。  それもまた、人生なのだから。 「ねえあなた、聞いてます? 私、話してるんですけど」 「ああ、聞いてる聞いてる。お前に似てるやつを思い出してな。ちょっと物思いに耽っていただけだ」 「へえ、そうなんですか。私に似てる人? だとしたら、ぜひお会いしたいですね」  彼女は、美しく長い黒髪を妖艶に揺らし笑う。そんな仕草は、見たことねえな。 「大丈夫。必ずそのうち会えるから」 「あら、そんな希望的観測なんていりませんわ。ふふ、マモルさんってイジワルな人ですね」  ともすれば蠱惑的な笑み。 「いや、俺ってのはどうやらSよりもMらしいね。昔言われたことが……いや違うな。これから言われる予定。これからな」
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