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つくづく俺って人間は、なんかの小説の主人公ばりに厄介事を引き付けるらしい。
そんな俺が列車に乗り王都へ向かうとなれば、決してすんなりと行くわけがないのである。
これはその、すんなりと行かなかった日々を俺が呟いているだけの、そんなひと夏の終わりの、残暑のような物語である。
天気はいたって快晴、ちと陽射しがきついがそこは夏の最後の悪あがき、言うなればそう残暑。
季節は総じて秋へと突入するその準備に追われている。そんな折、俺、つまりサクライマモルは人っ子一人いない森の中で月光浴に興じていたと。
そんな状況である。
「いや、どんな状況だよ。てか、月光浴て」
律儀過ぎるノリ突っ込み。
俺は体中なんともないことを確かめてから、脚に力を入れて立ち上がる。
うむ、実になんともない。
「あー……、マジなんだろうか」
……一日目――つまり俺のライセンス試験が始まってから最初の日のことをこれから徒然と話していく予定だ。
ライセンス試験。
試験官のトップであるところの、お偉いさんが言うにはここは俺の過去で、そこに俺の超えるべき『試験』が待っているんだそうだ。
精神的外傷。トラウマ。
そういったものをぶち破り、受け止める。これはそんな試験――言ってしまえばライセンス取得のためだが――魔術師ならば皆一度は通らなければならない関門である。
もちろん過去と言ってもそこは魔術で創られた仮想空間だ――人間をタイムマシーンで運ぶわけじゃない、過去をやり直すことが可能になるわけでもない。いくら魔術でもそこまで何でもありではない。
ただ俺の場合、何でもありどころか何でもなし、どころか難だけあったのだからお笑い種である。
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