タイムスリップナンセンス 前編

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 俺はこの世界に『過去がない』。  つまり行くべき場所がない。超えるべきトラウマがない。  その辺をお偉い試験監督である白髪野郎に伝えると、彼はこう言った。 『うーん……なるようになるんじゃない? 僕に訊かれても困るんだよね。異世界人? 知らないしね、そんなの。死ねばどうだい?』  お前が死ね。  珍しく殺意を抱いたのだった。 「てか、白髪とはいえ爺さんとかじゃないのかもな……やけに声が若々しかったし」  今更のことだが、若人だったのかもしれない。ただし、オール白髪ではファーストインプレッションが実際と違っても致し方あるまい。ということにしておこう。 『ただねえ……そんなヘンテコな経歴の君なら、一筋縄では行かないことを予言するよ。また違う異世界に飛ばされちゃったりしてね。うん? ならどうすりゃいいのかって? そりゃま、そんときゃ死ねばどうだい?』 『誰が死ぬか!』  思い出せば出すほどにむかつく。  そしてマジで異世界に飛んだ疑惑浮上。  …………。  ま、とりあえず歩き出そうじゃないか。  とその前に。  ただ歩くのもなんなので、回想を挟むことをお許しいただきたい。  国のお抱え兄妹に出会い、賞金稼ぎに攫われ、機械生命体に襲われ。  そんな物語も最早過ぎ去ったただの思い出、人生ってのは一向にその歩みを止めようとはせず、着々とゴールに向かってはいるようなのである。  万人がそうやってゴールに向かっているのだから、俺も例に漏れず惰性で生き続けているのだが、最近はどうやら勝手が違ってきているように思えてしかたない。  のんべんだらりと生きるはずだった俺のレールは、解体工事改築改造矯正完成を目指して着工開始、劇的なビフォーアフターよろしくな具合になっているのは見れば誰だって分かる。  一番分かっている。俺が。  一足先に王都――ローレンシウムとか言うらしい――に向かったのは、問題の当事者である俺ではなく、この国を束ね支える『四本柱』が一人クロム=ヴァキシオンその人である。
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