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俺はこの世界に『過去がない』。
つまり行くべき場所がない。超えるべきトラウマがない。
その辺をお偉い試験監督である白髪野郎に伝えると、彼はこう言った。
『うーん……なるようになるんじゃない? 僕に訊かれても困るんだよね。異世界人? 知らないしね、そんなの。死ねばどうだい?』
お前が死ね。
珍しく殺意を抱いたのだった。
「てか、白髪とはいえ爺さんとかじゃないのかもな……やけに声が若々しかったし」
今更のことだが、若人だったのかもしれない。ただし、オール白髪ではファーストインプレッションが実際と違っても致し方あるまい。ということにしておこう。
『ただねえ……そんなヘンテコな経歴の君なら、一筋縄では行かないことを予言するよ。また違う異世界に飛ばされちゃったりしてね。うん? ならどうすりゃいいのかって? そりゃま、そんときゃ死ねばどうだい?』
『誰が死ぬか!』
思い出せば出すほどにむかつく。
そしてマジで異世界に飛んだ疑惑浮上。
…………。
ま、とりあえず歩き出そうじゃないか。
とその前に。
ただ歩くのもなんなので、回想を挟むことをお許しいただきたい。
国のお抱え兄妹に出会い、賞金稼ぎに攫われ、機械生命体に襲われ。
そんな物語も最早過ぎ去ったただの思い出、人生ってのは一向にその歩みを止めようとはせず、着々とゴールに向かってはいるようなのである。
万人がそうやってゴールに向かっているのだから、俺も例に漏れず惰性で生き続けているのだが、最近はどうやら勝手が違ってきているように思えてしかたない。
のんべんだらりと生きるはずだった俺のレールは、解体工事改築改造矯正完成を目指して着工開始、劇的なビフォーアフターよろしくな具合になっているのは見れば誰だって分かる。
一番分かっている。俺が。
一足先に王都――ローレンシウムとか言うらしい――に向かったのは、問題の当事者である俺ではなく、この国を束ね支える『四本柱』が一人クロム=ヴァキシオンその人である。
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