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クロムさんは突然異世界に放り込まれたも同然の身元不明の俺を助けて下さったお方。
そしてその妹であるシルヴィア=ヴァキシオン。彼女は俺の魔術の師匠で、美人と言って差し支えは全く持ってないのだがいかんせん心が冷たい人物である。
「君、今何か失礼なことを考えていないか? だとしたら燃やすが」
「…………」
魔術というのは、俺の居た世界には無かった。ファンタジーの中の用語であるとばかり思っていたが、この世界には存在しているのだから仕方ない。
腹を括ろう。
「……魔術って、素晴らしいよな」
「む、答えになっていないんだが」
向かいに座るシルとはなるたけ視線を合わせないようにする俺。
目なんかキタジマを超える勢いだ。
ともあれ、魔術はこの世界に鎮座しているのである。しているものはしているし、していないものはしていない。つまり、そこに真理としてあるのだから、魔術は存在しているのである。
無理くりだが。そうなのだからしょうがない。人間、諦めが肝心である。
腹を括るのみだ。
そんなわけで、俺はシルと共に王都へと行こうというのである。
列車ぶらり二人旅である。デートである。ランデブーである。ハネムーンである。
……いや、最後のは冗談にしても悪過ぎた。嫌な男を彷彿とさせる。
んまあ、デートなり何なりの下りはオール空言、中身を伴わない空の言葉である。本気にしないでいただきたい。
予想していたにはしていたのだが、兄妹が散々な休暇を過ごした虹の森の辺りから王都へは十二分に遠く、三日程移動し続けてようやっと全行程の半分を過ぎたところなのだそうだ。
気が滅入るね、全く。
「なあシル。ローレンなんだりって、どんなとこなんだ? 緑がいっぱいとか、人がいっぱいとか、なんかそんなん」
「なんだりとか言うぐらいなら、しっかり記憶しろ。その方が短いだろう。……人は、まあそこかしこに居るな。別に、ただ単に城があるだけだ。他はどこも変わらない」
……城があるだけで、かなり変わってると思うのだが。
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