タイムスリップナンセンス 前編

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 ヴァキシオン兄妹は、王族。  想像もつかないが、だってそうなのだからしょうがない。  首を捻ろう。  ありったけ。 「どちらと言うまでもなく君が住んでいた所の方が、私としては興味深いのだが? 君からすれば、この世界など不便で退屈だろう。城など、その最たるものだ。違うか?」 「いや、別に……確かに、城は俺のとこにもあったけどな。俺はそういうことを言ってんじゃねえよ」  不便だとか。  退屈だとか。  そんな、マイナスなイメージなんか、持ってない。  無関心だとか。  無意義だとか。  無意味だとか。  無理だとか。  そんな、ネガティブなイメージも、持ち合わせていない。  そんな物の入る隙間なんか、こちとら残していないのである。  てか、毎日がいっぱいいっぱいなだけである。 「俺が言いたいのはだな。シルの故郷がいいとこだなって言いたいわけだ」  ちなみに。  俺の故郷も、いいとこなんだぜ。 「空気は悪いけどな……」  さて、列車内の回想はこの辺りで中断。物語の掴み、導入部分である。  ただしまだまだ、全ての回想は終わっていない。  しかし全てを噛み締める前に、シャットダウンの必要に迫られた。 「今の今までぼんやり考えてたが……。というか、薄々、か。どっちでもいいが」  俺は記憶と目の前の情景を比較する。 「ここを、俺は知っている」  既視感、なんて生易しいもんじゃない。  知っている。から知っている。それだけのことである。  あんの試験官、何か重大なことが起こるようなことを軽口で言っていたが、それはどうやら杞憂だったようである。  ほっとするような、いらいらするような。やっぱり苛々した。 「嫌がらせかよ。あんな仰々しく言うから、どんなファンタジーの世界に飛ばされるかと思ったぜ。拍手抜けだね」  ほとんど地図は頭に入っている。なんせ、二週間程過ごした場所だ。どんな方向音痴でも辿り着けるに違いない。  ほら、もうすぐだ。
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