クッション

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透けるアイマスクをした僕は横たわる。 仰向けの顔を上から江波が踏む。 紺色ハイソックスを履いた脚で。 江波は僕の顔を踏む。 繰り返し、繰り返し踏む。 激痛、恍惚。激痛、恍惚の繰り返し。 江波は無表情で脚を振り下ろす。 世の中の何もかもを見下し、憎み、怒り。それらの全てに疲れ果て “無”の境地に達した人のように。 それらを一身に受ける僕は、江波の鎮まらぬ怒りを衝撃吸収するクッションになった。 そう、僕はただのモノ。 江波という彼女を見上げながら、 江波という女に見下される。 屈辱と激痛と恍惚の時間。 僕の目に広がる景色。 プリーツスカートから覗く白い布生地の世界。 食い込む布生地。 黄ばんだ布生地。 アンモニア臭と分泌液臭のするであろう布生地。 口の中でねぶることを想像する。 広がる酸味。 江波にそれを乞いたいと思った瞬間、 また衝撃を喰らった。 激痛。恍惚。激痛。恍惚。 あまりの痛さと屈辱にじわりと涙が出てきた。 人は誰も他人を気にしていない。 だから僕はモノになる。 いつもフローリングの硬い床で寝て。 自分はどれだけ無価値でちっぽけな存在かを 冷たい床のひやりとした感触に 僕は唯一の暖かみを感じる。 それは家族だったり今まで関わった周りの人達。母親。 それらの冷ややかな温もりを感じ、安堵する。 この有能な人間ばかりが沢山いる世の中で。僕みたいな無能がどうして生まれてきたんだろうと。 自己の存在そのものを憎んだけど。 江波は僕と逆で、自分中心に廻らない世の方を憎んでるみたいだった。 江波。高慢な江波。 江波。純粋過ぎて世の矛盾や不条理のひとつひとつに憤る江波。 潔癖で他人の些細な落ち度にも目くじらを立て、神経質なまでに許せない江波。 世の中で自分が必要性を感じない物や者は 自分の命令ひとつで消せるのだと 本気で信じる江波。 今までその美貌という権力で本当に思い通りになってたのだろう。目的の為なら手段を選ばぬ江波。 美しい江波。 君は僕の太陽だ。 長い茶髪は日だまりの中、金色に輝き。 そこから覗く目は 心底怒りと冷たさに満ちていて。 僕が苦痛に泣こうが喘ごうが呻こうが 「それがどうした」といわんばかりに 冷酷非情に瞬く目。 江波。この世はね。 衝撃。 おかしいことだらけなんだよ。 激痛。 おかしいことが沢山あってそれで成り立つ。どんな矛盾も不条理も全ては必要なんだ。 恍惚。 それが世の中なんだよ。 悲鳴など無視。
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