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重く響く騒音と振動が意識を現実に引きずり戻す。朦朧とする頭を持ち上げながら、今いるアパートの目の前にバス停があることを思い出した。
時刻は午前8時過ぎ。30分ほど寝ていたようだ。体を起こして周りを見渡す。少し幅が狭く奥行きのある部屋に男が4人、女が2人、平行に寝ている。
部活の仲間と誰かの部屋に集まって朝まで飲む。そんな何処にでもある日常。
酒には強い方だと思っていたが、遅れて参加したのでペースを上げたためか、少し頭が痛い。
ふと自分の横に寝ている女を見る。この女は他の部員の友達らしく、昨夜会ったばかりで、人となりをよく知らない。
黒く長い髪。目を見張る程ではないが、整った顔立ち。きれいな肌。可愛いという言葉を使うのには十分な容姿である。
ううん、と声を漏らし寝返りを打つ。そんな様子が愛しくて、酒が残っているのか、つい抱きしめたくなる。もちろんできない。二人きりだとしてもだ。
この女の小さな手の、右手の薬指の銀色の指輪が、カーテンの隙間から差し込む朝日を反射している。どうもカップルは指輪を右手の薬指にはめる習慣があるらしく、どうやらこの可愛い女を放っておくほど周りも馬鹿ではないらしい。
そして、自分も、一応、付き合っている女がいる。指輪はしてないが。
白い携帯が光って女の顔を照らす。おそらく、彼氏からメールが届いたのだろう。ランプが女を起こそうと点滅しているが、反応は無い。
自分の黒い携帯を取る。点滅しているランプの色を見て、ため息をついてしまった自分が情けない。
もう1週間以上連絡を取っていない。一応、と書いたのはそのためだ。
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