存在。

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『昨日、彼氏がさ……』 『この雑誌のモデルの服、この間安く買えたよ』 『ねえ、トイレ一緒に行こうよ』 『なあ、帰りにゲーセンでも寄ってく?』 『僕、昨日、このゲーム全クリしたんだぁ』 ――教室内の雑音が葵の耳に攻めてきた。 いい加減、会話のパターンも固定化されてきているように聞こえてくる。 ――葵は、ただ一人、クラスの空間の物体と化するために、一人で絵を描いていた。 (こういうの空気になるとよく言うけど、空気って人間に不可欠なものだから、そんなこと言うなんて図々しよね) 自分でそんなことを考えながら納得すると、欠伸が出てきた。 (そうだ、あの絵……) 葵は、プールに向かうべく描いていた絵をスクールバックに入れて、それを肩にかけると、手提げ袋を持って教室から出た。 『また、あの子どっか行くんだ……』 クラスの誰かがひっそりと喋っていた。 (今日はサボろう……)
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