9人が本棚に入れています
本棚に追加
太陽は、納得したようにそう言う。すると葵は、メロンパンを美味そうに頬張る。
「僕に敬語なんて使わなくて良いから。こんな時ぐらい堅苦しいのは止してよ」
葵は太陽の優しげな声を聞き、頷くしかなかった。まあ、“上下”という隔てる壁がなくて話す方が気が楽だからいいか。と葵自身、納得してしまう。
そして、何てなくこの会話は終わり、また二人の間は静かになる。
「…なぁ、」
またしても静けさを破ったのは彼であったが。
太陽は、葵を呼びかけるように言葉を発すると、葵は口内にあったメロンパンの欠片を飲み込んでから返事した。
「なあに」
「君、ここに来て楽しい?」
太陽の問いは、聞かれて当たり前だろうという内容だった。
葵は別に驚きも焦りもせず、淡々と答える。
「…楽しいってか、私にはここしかないの。」
葵には“居場所”と呼ばれる場所がない。全部、葵を空気にさせるような場所しかない。
葵を葵として見てくれるのは…美術室とプールだけ。
その美術室も…授業以外は閉められている。
「そっか」
太陽はそれ以上聞かなかった。
「貴方はどうなの。」
「え?」
「貴方は、ここしか居場所がなくなったの?」
疑問だった。
毎日ここに来ていたが、太陽と出会うようになったのはこの間が初めて。
何故、太陽がここに来るようになったのか不明だった。
「別に。楽しみがあるから来てるだけ」
深い意味もなく、答えはそれだった。
“楽しみ”葵はそれが何の事か解らなかったが、聞かなかった。
太陽は、葵のメロンパンを勝手に千切って自分の口に入れる。どこか頬は赤らんでいた。
「んー、やっぱりメロンパンはメロン味がいいな」
太陽は食べておいて、そんな感想を漏らした。
最初のコメントを投稿しよう!