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保健医が留守の保健室で、太陽は葵に手に湿布と包帯を巻いていた。
「応急措置だから。病院行ってね」
静けさが漂う保健室に、蝉と部活する人間の声が響く。
「…あの、一つ聞いていい?」
「なに、」
ぱちん、と包帯をハサミで切ると、そこにテープを貼り付けた。
「どうして…私の事を良くしてくれるの?」
「…何の事?」
太陽は片眉を上げ、歌舞伎役者の絵のような表情をした。
「だって…会って数回話してるだけなのに。私の事助けてくれたり…」
どうも不思議だ。
彼にとっては、自分の事などどうでも良い存在の筈。
あそこまで必死で…助けてくれたのかが解らないでいた。
「困っている人を助けるのって、駄目なの?」
真顔で、太陽はそう言う。
「いや、そういう訳じゃないんだけど…」
葵は困りに困って俯く。
太陽は、そんな葵の右手に目をやった。
「その手じゃあ、今日はもうプールに行くの無理そうだね。家まで送ってくよ。」
顔を上げ、葵は首を横にふった。
「一人で帰れるよ」
「そんな手じゃあ荷物持ちにくいだろ。遠慮しないで」
太陽はそう言うと、葵のスクールバックとカルトン入れを持つ。
「あの…ありがと」
申し訳ないのと、有難いのが入り交じる上で色んな意味で葵がそう言うと、太陽は片手に荷物を持ち返してから、もう片方の手で葵の頭を撫でた。
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