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「これからは、ちゃんと覚えておきな」
「はい!」
少女は良い返事をする。
ふと、前を見ると、少女の母親だろうか。洒落た女性用のスーツを着た、若目の母親が誰かを探すように立っていた。
すると、少女の方を向き、やっと見つけた!と言うように駆け寄ってきたのだ。
「どこ行ってたの!もう式始まるわよ!」
「ご、ごめんなさい…」
母親と目が合う少年は、猫背気味の背をを真っ直ぐと伸ばした。
「この人が体育館教えてくれたのよ」
少女は少年の方を向いて言う。
「まあ、ほんと。ありがとうございます」
母親であろう人が少年に大袈裟という程、深々と頭を下げてくる。
「い、いいんですよ…」
「この人凄く良い人で優しい人よ」
少女は満面の笑みで笑う。
会ったばかりなのに、可愛いと思えてしまうようなそんな笑顔だ。
「あ!式始まっちゃうわ!さあ、行くわよ!」
思い出したように母親は言うと、少女の手を引き、もう一度少年に頭を下げる。
少女は「ありがとうございました!」と言い、少女と母親は体育館に入って行った。
『この人凄く良い人で優しい人よ』
少女が言った、その言葉が少年の脳内に妙に残った。
「良い人で、優しい人か…」
少年は赤くなり、笑みを溢す。少女の満面の笑みが忘れられない。
―――何故だか、また、少女に会えるような気がした。
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