晴。

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今年、一番なくらいの暑い日だった。 葵は、グラウンド裏の柵を登って校内にあるプールに侵入を開始していた。 ボールがバットに当たる音や、ボールの蹴る音、無駄にパンチのきいた掛け声が葵の耳に入ってくる。 運動神経が人よりちょっと衰える葵だが、この柵は頑丈で網目が大きいので、とてものぼりやすかった。 プールサイドに素足をつけると、あちぃ感覚が葵の足裏を焼いた。 左足と右足に交互に熱を感じさせながら、葵は見学者用のベンチに座り込む。 ここだと、影があるから足下も暑くないし、日にも焼けない。 母手作りの手提げ袋に入ったカルトンを脇に置き、そこから小さなスケッチブックを取り出すと、いつも開くそのページを開いた。 そこを見る都度、ため息をつく。 水をイメージし、青を中心とした水面……陽射しで、その水は輝いていて、今にも泳ぎたくなる絵である。 まるでプールを描いたみたいな絵だった。 ――しかし、葵にはこの絵が不満足でならない。 「……何かが足りない」 ――そう、何かが足りないのだ。
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