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――葵の耳に、男の声が聞こえた。
しまった、教師か。
柵から侵入したのがバレたのか。
最悪だ。バレたら、今ののぼりやすい柵を改造されてしまうではないか。
「違うんですあたし決して柵から侵入したんじゃあありません」
汗をだらだらかきながら、スケッチブックに伏せたままの顔面を少し上げる。
急ぎと焦りで句読点もなしに早口で言う。
単に、呂律が回らなかっただけだが。
「は?何いってんの。」
男は不思議そうに言っていて、その口調だと教師ではないであろうと葵は気付いた。
声もよくよく聞くと、教師(葵の知っている限り)のの太い声ではない。
葵が安堵して顔を上げると、そこには背の高い茶髪の男子が立っていた。
「絵、描いてるの?」
――安堵してる場合ではなかった。
葵は男子があまり好きではないのだ。
下品だし。変態だし。ばか笑いするし、地味な女子には容赦なく暴言を吐いてくるからだ。
教師ではないことに小さい安堵を感じ、忘れていた。馬鹿である。
葵は男子の目の前にすると全身が硬直してしまった。
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