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そのために、
男子に返答ができなかった。
風と共に、沈黙が流れる。男子は葵の返答がないのに気にせず話題を変えた。
「てかお前、柵からのぼってきたんだ。やるなあ。」
男子は笑う。柔らかな笑みで。なんというのだろう、ものすごく疲れた時に食べる甘いものみたいな癒される雰囲気みたいな。
葵はそれを見て、ちょっと硬直が溶けたのか頷いた。同時に、うん、と小声で言ったのだがそこらへんの部活をしている人間の声の方が大きくて、多分聞こえなかっただろう。
「すげえなあ、僕なんて毎回、糞真面目に泳ぐ練習しますなんて嘘ついて鍵貰いに行くんだけど、そうか、その手があったか。」
男子は、ははっと納得したように笑いながら葵の横に座る。「隣いい?」みたいなこと普通聞くだろ、と葵は思ったが、思っただけで言わない。
「……その絵、君が描いたの?」
「……うん」
「まじかよ。すっげぇ綺麗っっ!」
男子はそう言うと、葵の手にあるスケッチブックを取り上げた。
「あ……」
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