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「世の中って、怖いな」 ありきたりの台詞が、口から出る。が、そこに真実味はない。 所詮、他人事だからだ。 自分は関係ない、自分は知らない。だから怖いと言いながら、大して気にはしていない。 「喉がカラカラ」 冷蔵庫をあけると、飲みかけの炭酸ジュースとビールが3缶。 しょうがねぇな、と炭酸ジュースの蓋を開けると、間抜けな音と共に炭酸ガスが抜けた。 半分ほどのジュースを一気に飲み干す。ただの甘い水だった。 ブブブ………。 枕元で携帯が震えている。 メールもしない、ゲームもしない勇太郎にとって、携帯電話は本当に電話、だ。 「母さんか?」 朝早く電話を掛けてくる相手は母親くらいしか浮かばない。携帯を手に取り、着信相手を見てみると、大学のサークル仲間――犬井だ。
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