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そこは世界の果て。
落ちた神の街。
世界から外れた神の街。
触れるだけで肌の切れそうな鋭い岩礁。それらに当たった荒波は白く砕け散っていく。海風が鳴り、空を往く雲は恐ろしく速い。
絶海の孤島のまわりは潮の流れが速く、船では近づけない。
空には常に強風が吹き荒れ、鳥さえも立ち寄ることがない。
低く立ちこめた雷雲が唸り、風が嵐のように吹き荒ぶ。
街は廃墟と化し、風化した建物はもはや瓦礫の山となっていた。
かつては緑豊かだった森は枯れ、ただの荒野となり果てている。
広大な廃墟の中心に崩れた古城が不気味に建っていた。
吹き抜けの崩れた王の間、朽ちかけた玉座にたたずむ一人――いや、一柱の神。
名を無くし姿をなくした神は黒いマントと白い仮面をつけ、呪術師の様な姿をしている。
細木の様な腕は包帯が巻かれ、見える肌は死人のように白く、蝋のようだ。
「もうすぐだ……我が力がもうすぐ復活する。世界は我が一部となる」
低く乾いた聞くものを不吉な気分にさせる声。
仮面の下から死人のような息使いで声を漏らす。
蜘蛛の脚ように細長く鋭い五指をいとおしげに眺めていた。
我が意志に干渉されているとは知らずに争いを続ける愚かな神々。
戦いの怨嗟は我の失われた姿を取り戻しつつある。
人間どもの負の感情が我の力を高めつつある。
しかし、先日感じた奇妙な予感は一体なんだ?
あの忌まわしき男と同じ感覚――。
再び異世界の戦士が現われたか?
黒き神は仮面の下で口元を歪め、玉座に背を預けた。
まぁ、今はどうでもいい。我が肉体と力を復活させるのが先だ。
世界が我を拒み戦士を呼んだなら今度こそ滅ぼすまでよ……。
崩れた古城の上空で稲妻が激しく轟いた。
吹き抜けの屋根から降り注ぐ豪雨が王の間に流れ込む。
「くく……戦いの始まりにはふさわしい天気よな。まずはウルカヌスがどう動くが見せてもらうとしよう」
黒装束を纏った神は楽しげに空を見上げ、低く呟いた。
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