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冷たく邪悪な声は言った。
「欲望、怠惰、憎悪、恐怖…人の負よ、我が力となれ!」
ここはタイタニアという小国である。
物語はここから始まる。
「ねぇ…」
少女の声が遠くから聞こえくる。透き通るような明るい声。
「ねぇってば!」
声はだんだん近づいてきたが、少年は目を閉じて寝たふりをしていた。
バシ!!
強烈な一撃が頭にとんできた。
「痛っ!?何するんだよ!」
少年は怒ったように起き上がり、殴った本人を見上げた。
「寝たふりなんかするからよ!自業自得ね!」
少女は笑いながらブイサインを作っている。
彼女の名前はグロウ、いつも明るく、無鉄砲な元気な少女だ。
大きな瞳と雪のような白髪。肌も白く、可愛らしい顔立ちをしている。
「……で何の用だったの?」
少年は頭をさすりながら起き上がった。
彼の名前はクリード、頭はいいがお人好しで、グロウの幼なじみである。
黒い髪は耳にかかるくらいの長さで、女の子ともとれる中性的な顔立ちをしている。
「何言ってんのよ。今日は祭りの準備を手伝うって、言ってたでしょう。」
グロウは呆れ顔で答える。
この祭りは年に一回の行事で近くの町からも多くの人が参加する大きな祭りである。
「さぁ!早くいこ!」
グロウはクリードの腕をグイグイ引っ張った。
その時、大地が大きく揺れた。
「キャァ!」
グロウはバランスを崩し尻餅をついた。
しばらくすると、揺れはおさまった。
「イタッ~、何だったの今の?」
グロウは座りながら訝しげな表情を浮かべている。
「たぶん、地震だと思うよ……珍しいね……グロウ、大丈夫?」
クリードは座り込んでいるグロウが立つの手をかしながら呟いた。
初めての経験だったが、村の爺さま達が話していたのを聞いたのでたぶんそうだと思ったのだ。
「うん…ありがと」
グロウが立ち上がった瞬間、さっきよりも大きい揺れによって二人ともバランスを崩して倒れてしまった。
「何なのよ~!」
グロウは泣きそうな声で天に向かって叫んだ。
「落ち着いて! 大丈夫だから…」
クリードはグロウを強く抱き抱えた。
せめて彼女は守らないと。
揺れの中、それは起きた。
突然、空が歪み、虚空に黒い罅が生まれた。
「…………え?」
クリードは気を失う瞬間にはっきりとそれを見た。
亀裂から現われた巨大な扉を…………。
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